社内LLM、自前GPUとAWS Bedrockどちらを選ぶか【2026年6月・損益分岐の数値で比較】

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本記事の数値はすべて2026年6月29日時点・AWS公式ページおよびAWS JPブログの確認値です。 Bedrock料金は変動が速いため、意思決定前に必ずAWS公式料金ページ(https://aws.amazon.com/bedrock/pricing/)で最新値を確認してください。


結論を先に示します。BedrockかGPUかを決める問いは3段階あります。

Q1: Claude相当のモデル品質が必要か? → YES: AWS Bedrock(JP Geo)一択。自前でClaudeは動かせない。

Q2(Q1がNO=OSSモデルで足りる場合): 月間トークン量の見込みは? → OSS最安クラス(Gemma 3 27B相当)で月3億トークン未満 → Bedrockの方が安い。

Q3(Q2で3億トークンを超える大規模の場合): データを日本から出せない業種・データ種別か? → 医療電子カルテ・官公庁(ISMAP制約) → 自前必須。それ以外 → JP Geo Bedrockで国内完結できる。

この3問に答えると、後述する比較表が決定木として機能します。各問の根拠を以下で順に確認します。


「どちらが安いか」が問いとして間違っている理由

「Bedrock vs 自前GPU」を比較しようとすると、すぐに違和感に気づきます。比較対象になっているものが、実は同じものではないからです。

AWS Bedrockが提供するのは、ClaudeやAmazon NovaといったプロプライエタリなモデルへのAPIアクセスです。これらのモデルは重みが公開されていないため、自前のGPUサーバーに載せることができません。自前で動かせるのは、Llama 4・Qwen3・Gemma 3といった公開重みのOSSモデルのみです。

つまり「BedrockかGPUか」という問いを立てた時点では、まだ選択肢が揃っていません。「Claude相当の品質が必要か、OSSモデルで足りるか」を先に確定してからでないと、コスト比較は意味を持ちません。

この整理をせずに「Bedrockの従量課金は高い」「自前GPUは初期費用がかかる」と比べても、りんごとみかんを比べているようなものです。OSSモデルで足りると判断できた場合に初めて、コストの損益分岐が議論のテーブルに乗ります。


AWS Bedrockの実態(2026年6月29日時点・一次ソース確認)

東京リージョン(ap-northeast-1)で動くモデル

2026年6月29日時点でAWSドキュメント(https://docs.aws.amazon.com/bedrock/latest/userguide/models-region-compatibility.html)から確認したモデルの抜粋です。

プロバイダ確認済みモデル(一部)
Amazon NovaNova Lite、Nova Micro、Nova Sonic、Nova Reel、Nova Canvas
Anthropic ClaudeClaude Sonnet 4.6、Claude Opus 4.5〜4.8シリーズ、Claude Fable 5
GoogleGemma 3 4B / 12B / 27B
DeepSeekDeepSeek v3.2
MistralMistral Large 3、Ministral 3B / 8B / 14B、Devstral 2 123B
NVIDIANemotron Nano 2、Nemotron 3 Super 120B
MoonshotKimi K2 Thinking、Kimi K2.5
MiniMaxMiniMax M2
Z AIGLM 5、GLM 4.7、GLM 4.7 Flash

重要な注記が2点あります。

1点目。Claude Sonnet 4(レガシー)・Claude Opus 4(ベース)・Claude Mythos / Fable 5の一部は、東京In-Regionでは現時点で利用できないか確認が取れていません。これらのモデルを東京固定で使いたい場合は、後述するJP Geoプロファイルの対応状況を個別に確認してください。

2点目。Amazon Nova Proは2026年6月29日時点のドキュメントでap-northeast-1への掲載が確認できませんでした。Nova Lite・Nova Microはカバレッジが確認されています。

各モデルのVRAM要件や自前で動かす場合の構成については、GPU選定記事(local-llm-server-gpu-selection)を参照してください。

料金体系の仕組み

Bedrockの課金は3パターンに分かれます。

オンデマンドは使った分だけ払う従量制です。初期費用ゼロで即日使い始められるため、実証実験や立ち上げ期に最も向いています。ただし後述する青天井リスクを許容する必要があります。

バッチ推論は通常のオンデマンド料金から50%割引になります(確認日: 2026年6月29日・AWS公式料金ページ)。リアルタイムの応答が不要な用途、たとえば大量の社内文書を夜間に一括要約するようなケースに向いています。ジョブを投げて後で結果を受け取る非同期処理の形式です。

Provisioned Throughput(PT)は時間単位の固定課金です。Model Unit(MU)という単位で容量を予約し、実際に使ったかどうかに関わらず時間単位で課金されます。単価はAWS担当者への問い合わせが必要です(公開リスト外)。継続的・高頻度な本番用途で予測可能なスループットが必要な場合に向いています。使わなくても最低の課金が発生するため、フルに使い続ける前提でないとオンデマンドより割高になります。

サービスTierについても補足します。Standard(基準価格)、Flex(50%割引・一部モデル対応)、Priority(Standard比+75%プレミアム・より高いスループット優先)の3段階があります。Reserved(カスタムコミットメント)はAWSへの問い合わせが必要です。

JP Geoプロファイルと+10%プレミアム

BedrockでClaudeを使う際に「データを日本に留めたい」場合には、JP Geoクロスリージョン推論プロファイルが選択肢になります。JP Geoは東京(ap-northeast-1)と大阪(ap-northeast-3)の2リージョン間のみでルーティングされ、データが国外に出ません。

AWS JPブログ(https://aws.amazon.com/jp/blogs/news/amazon-bedrock-now-supports-japan-cross-region-inference/)で確認した内容によると、「データが国外に出ることはありません」「クロスリージョン推論中に送信されるデータは、暗号化され、安全なAWSネットワーク内に留まります」と明記されています。

JP GeoプロファイルのモデルIDには jp.anthropic. から始まるプレフィックスが付きます(クロスリージョン推論プロファイルの形式)。モデル名・バージョン部分は提供状況で変わり、表記も更新されるため、実際にAPIで指定するIDは利用時点でAWSコンソールのクロスリージョン推論プロファイル一覧、またはAWS公式ドキュメントで確認してください(本記事はあくまで形式の例示です)。

この「日本に留める」選択のコストが、グローバルルーティング比+10%です(AWS JPブログ確認)。グローバルルーティングは最も安いですが、データの所在リージョンが保証されません。3つのルーティングモードを整理すると次のとおりです。

モードルーティングデータ所在コスト
In-Region(ap-northeast-1)東京固定東京のみ標準
JP Geo(クロスリージョン)東京+大阪のみ日本国内グローバル+10%
Global任意のAWSリージョン所在保証なし最安

なお、AWS BedrockはデフォルトでAWSが顧客のリクエスト・レスポンスをモデルのトレーニングに使用しないポリシーを掲げています。ただし正確な適用範囲や条件は利用規約の解釈が必要なため、Bedrock FAQページ(https://aws.amazon.com/bedrock/faqs/)で最新の表現を確認してください。

青天井リスクと対策

オンデマンド課金はデフォルトで使用上限がありません。エージェントのループバグやプロンプトインジェクションが起きると、コストが想定外に膨らむリスクが現実にあります。

対策は2つです。AWS Budgetsでアラートを設定し、しきい値を超えたときに自動でサービスへのアクセスを止めるBudgets Actionsを組み合わせるのが最も確実です。加えて、IAMのToken Quota Controlsでモデルごとのアクセス制限をかけておくと多重の防衛になります。

本番導入の前に、この2つの設定は必ず入れておいてください。


自前GPUの実態 — コストと天井

初期費用(DAIV構成別)

自前LLMサーバーの代表的な選択肢として、以下の3構成を確認しています(税込価格・2026年6月時点)。

構成DAIVモデルGPU / VRAM税込価格
A: 小さく始めるKM-I7N20RTX PRO 2000 / 16GB ECC約57.5万円
B: 速度重視FX-I7G90RTX 5090 / 32GB約103万円
D: フラッグシップFW-P9N60RTX PRO 6000 / 96GB ECC約800万円

構成A/B/Dの違い・どの用途に何が向くかの詳細な決定木は、GPU選定の姉妹記事(local-llm-server-gpu-selection)で確認できます。本記事ではBedrockとのコスト比較に必要な範囲に絞ります。

ランニングコスト(電気代概算)

電気代の概算は以下のとおりです。事業用電力契約・設置環境・稼働時間率により実際の数値は変わるため、あくまで試算の参照値として扱ってください。

  • 構成A(70W前後・24時間365日稼働): 月50kWh前後 → 月1,000〜1,500円(¥20〜30/kWh換算)
  • 構成B(575W前後・24時間365日稼働): 月414kWh前後 → 月8,000〜12,000円(¥20〜30/kWh換算)

電気代の¥20〜30/kWhは一般的な事業用電力の目安です。実際の契約単価によって大きく変わります。

3年償却で月次固定コストを合わせる

BedrockはトークンあたりのコストなのでBedrockとの比較には自前の月次コストを揃える必要があります。構成A・Bを3年(36か月)償却で月次換算した場合の概算です。

  • 構成A: ハード約1.6万円/月 + 電気約0.15万円/月 = 月約1.75万円
  • 構成B: ハード約2.86万円/月 + 電気約1万円/月 = 月約3.86万円

この試算には保守・OSパッチ・モデル更新の対応人件費が含まれていません。実際の総所有コストはこれより高くなります。

自前で使えるモデルの限界

自前GPUで動かせるのはLlama 4・Qwen3・Gemma 3といったOSSの公開重みモデルのみです。ClaudeやAmazon Novaはプロプライエタリな重みのためダウンロードも配布もされておらず、物理的に自前サーバーで動かすことができません。

2026年時点のOSSモデルの品質は上昇しており、多くの定型業務では実用レベルに達しています。ただし、Claudeが得意とする複雑な推論・長文の精緻な要約・高度なコーディング補助などでは差が生じるケースがあります。ベンチマークの変化が速いため、最新の比較は公開されている評価データを都度確認してください。


損益分岐の考え方 — いつ自前が有利になるか

ここが本記事の核心です。「いつ自前が安くなるか」の答えはモデルの種類によって大きく変わります。

計算式の骨格

月次Bedrock費用 = (入力トークン数 × 入力単価) + (出力トークン数 × 出力単価)
月次自前固定コスト = ハード償却 + 電気代

損益分岐トークン量 = 月次自前固定コスト ÷ Bedrock相当モデルの1Mトークン単価(円)

以下の試算では為替を¥150/ドルの仮定で計算しています。実際の判断時には当日のレートで再計算してください。

OSSモデル(Gemma 3 27B)での損益分岐

東京リージョンで確認したGemma 3 27Bの料金(2026年6月29日・AWS公式料金ページ確認):

  • 入力: $0.28 / 1Mトークン
  • 出力: $0.46 / 1Mトークン
  • 入出力50/50のブレンド単価: $0.37 / 1Mトークン → ¥55.5 / 1Mトークン(¥150/$換算)

この単価に対して、自前構成A(月約¥17,500の固定コスト)が損益分岐するトークン量は:

¥17,500 ÷ ¥55.5/1M = 約3億1,500万トークン/月

構成B(月約¥38,600)では約6億9,600万トークン/月になります。

社員100名が1人あたり1日500トークン消費したとして、月130〜150万トークン前後です。3億トークンは、社員500名全員が毎日フル稼働し続けても届かない規模です。一般的な中堅企業のワークロードでは、OSSモデルのコスト損益分岐点には届きません。

Claude品質での損益分岐(参考試算)

Claude Sonnet 4.5 JP Geo料金(2026年6月29日・AWS JPブログ確認):

  • 入力: $3.30 / 1Mトークン
  • 出力: $16.50 / 1Mトークン
  • 出力重視(入:出 = 1:4比率)のブレンド単価: $13.86 / 1Mトークン → ¥2,079 / 1Mトークン(¥150/$換算)

この単価での損益分岐:

  • 構成A: ¥17,500 ÷ ¥2,079 = 約840万トークン/月
  • 構成B: ¥38,600 ÷ ¥2,079 = 約1,860万トークン/月

構成Aの840万トークンは、30〜50名のアクティブユーザーが日常的に使い続けると届きうる水準です。

ただし、この試算には重要な前提があります。 自前でClaude相当の重みは動かせないため、これは「OSSモデルでClaude相当の品質が出せると仮定した場合」の計算です。現実には自前GPUでClaudeは動きません。「じゃあ自前でClaude品質を狙いたい」という選択肢は存在しないため、この数値は「Bedrockを使い続けるコストが自前の固定コストを超えるかどうか」の参考値として読んでください。

損益分岐の要約(概算試算)

モデル品質損益分岐トークン/月(構成A基準)中堅企業(社員100名)が超えるか
OSSモデル(Gemma 3 27B相当)約3.15億トークンほぼ超えない
Claude Sonnet 4.5相当約840万トークン(※)30〜50名のアクティブ利用で届きうる

※ 自前でClaude重みは動かせないため、あくまで参考試算です。

免責: 以上の数値はすべて概算試算です。電気代・為替・料金の変動・保守人件費は含んでいません。自社の実ワークロードと電力契約に基づいて再計算の上で意思決定してください。


データ所在とコンプライアンス — 「日本から出せない」ケースの見極め方

「Bedrockは外部クラウドだから危ない」という判断は定性的で不正確です。「どのデータをどのモードで処理するか」に落として判断することが必要です。

JP Geoで解決できる業種

  • 一般的な情シス業務(社内文書要約・コード生成補助・ナレッジベース検索)
  • 製造業の設計支援(未公開特許が含まれない範囲)
  • 法務の一般文書チェック(守秘義務の範囲が社外サービスへの送信を許容する場合)

JP Geo Cross-Regionを選べば、データは東京と大阪のAWSリージョン内のみで処理されます。「データが国外に出ることはありません」(AWS JPブログ確認)のとおりです。

JP Geoでも解決しないケース(自前必須)

医療(電子カルテ): 個人情報保護法の要配慮個人情報ガイドラインにより、院外への送信自体が厳格に制限されるケースがあります。電子カルテと直接連携するような用途では、外部サービスへの送信そのものがNGになる場合があり、自前での閉じた環境が必要になります。

官公庁(ISMAP準拠要件): 住民情報・行政文書の越境移転制約があり、使用するクラウドサービスのISMAPクラウドサービスリストへの掲載状況次第で判断が変わります。最新のISMAPリストと調達要件を個別に確認してください。

金融(FISC安全対策基準): 監督指針に基づく委託先管理・監査要件が、外部クラウドサービスの選択を制約するケースがあります。システム監査の対応範囲を含めて確認が必要です。

データ種別と業種の組み合わせによって判断が変わるため、「AWSだから一律NG」でも「JP Geoなら一律OK」でもありません。法務・コンプライアンス部門と連携して個別に確認することを前提にしてください。


判断の決定木 — 3問で選ぶ

ここまでの内容を決定木にまとめます。

Q1: Claude / Anthropic品質のモデルが要るか?

  └─ YES → AWS Bedrock(JP Geo)が基本選択
            (自前でClaude重みは動かせないため)

  └─ NO(OSSモデルで足りる)→ Q2へ

Q2: 月間トークン量の見込みは?
     (OSS最安クラス・Gemma 3 27B相当、ブレンド単価 約¥55/1M換算)

  └─ 3億トークン/月未満 → Bedrock継続が安い
  └─ 3億トークン/月超(社員500名全員フル稼働以上の規模)→ Q3へ

Q3: データを日本から出せない業種・データ種別か?

  └─ 医療電子カルテ / 官公庁(ISMAP制約) 等 → 自前必須
  └─ それ以外 → JP Geo Bedrockで国内完結できる(+10%コスト)

Q2の「3億トークン」はOSSモデルを前提にした閾値です。Claude品質相当での分岐点は約840万トークンですが、Q1の時点で自前GPUでClaude品質は選択できないため、Q2に到達する時点でOSSモデルが前提になっています。

判断軸の要約早見表

判断軸Bedrockが向く自前GPUが向く
モデル品質Claude / Nova品質が必要OSS品質で足りる
月間トークン量数千万〜3億未満3億超(OSS限定)
データ越境JP Geoで国内完結できる業種院外送信禁止 / ISMAP制約業種
初期投資ゼロ(従量)57.5万〜800万円
運用負荷AWSフルマネージド自社24時間対応必須
コスト予測性変動(青天井リスクあり)固定(初期償却後は安定)

まとめ

「BedrockかGPUか」という問いは、3段階の問いに分解して初めて答えが出ます。

Q1でモデル品質を確定する。Claude品質が要るならBedrockが唯一の選択肢です。OSSで足りるならQ2へ進む。Q2でトークン量を確認する。中堅企業の一般的なワークロードであれば、OSSモデルでもBedrockの方がコスト効率は高い水準にあります。Q3はデータを日本から出せない業種の場合にのみ、自前必須の判断が固まります。

2026年6月時点の状況として、OSSモデルの品質は大幅に上昇していますが、Claudeが持つ独占的なモデルアクセスはBedrockの絶対的な優位として残っています。この構造が変わらない限り、多くの日本の中堅企業にとってはBedrockから始める選択が合理的です。

ただし、試算はあくまで概算です。自社の実ワークロード・業種別コンプライアンス要件・電力契約を確認した上で最終判断を行ってください。


要件整理・構築相談

どちらが自社に合うかは、使うモデル・月間トークン量の見込み・データの種別が揃って初めて判断できます。「Bedrock or 自前か」の要件を1枚に整理するところから、構成設計・移行支援まで対応しています。

概算試算の数値を自社ワークロードに当てはめたい場合や、JP Geo・コンプライアンス要件の確認を一緒に進めたい場合は、以下からご相談ください。

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