スクレイピングの法的グレーゾーン:利用規約・著作権・不正競争防止法を整理する
この記事は一般的な法律論点の整理であり、法的助言ではありません。 個別の案件が適法かどうかは、対象サイトの利用規約・データの性質・取得方法・利用目的によって結論が変わります。実際にスクレイピングを業務に組み込む前には、必ず弁護士に個別の事案として確認してください。
TL;DR
スクレイピングという行為そのものは、日本の法律で一律に禁止されているわけではない。問題になるのは「何を」「どうやって」「何のために」取得するかという態様の部分だ。整理すべき論点は大きく4つ。
- 利用規約違反: 刑事罰ではなく契約(民事)の話。規約でスクレイピングを禁止しているサイトを規約に反して取得すると、契約違反や、場合によっては損害賠償の対象になりうるという論点がある
- 著作権法: 取得したデータが「創作性のある表現」なら著作物になりうる。ただし情報解析目的の複製には権利制限規定があるという整理がある
- 不正競争防止法: 競合が管理している非公開データを不正な手段で取得・利用すると「限定提供データ」に関する不正競争として扱われる論点がある
- 不正アクセス禁止法・偽計業務妨害罪: 認証を突破するような取得は不正アクセス禁止法の論点になりうる。認証がなくても、サーバーに過度な負荷をかけると業務妨害の論点になりうる
以下、それぞれをもう少し掘り下げる。
論点①:利用規約違反(契約法上の論点)
多くのWebサイトは利用規約に「自動的な手段によるデータ取得を禁止する」といった条項を置いている。これは著作権法や刑法の話ではなく、サイト運営者と利用者の間の契約(民事)の話という整理が一般的にされている。
規約に違反してデータを取得した場合、ただちに犯罪になるわけではないが、次のような形で問題化しうるという論点がある。
- サイト運営者から利用停止・アクセス遮断の措置を受ける
- 規約違反を理由とした損害賠償請求の対象になりうる(実際に賠償が認められるかは損害の立証等、個別の事情による)
- ログインが必要なページの場合、認証を経て取得した情報を規約に反して二次利用すると、契約違反に加えて後述の不正競争防止法の論点が絡んでくることがある
実務上のポイントとして、ログイン不要で誰でも閲覧できる公開ページか、ログイン後にのみ見られる非公開ページかで論点の重みが変わる、という整理をしているサイトが複数見られる。ログイン後ページの取得はより慎重な検討が必要という考え方が一般的なようだ。
いずれにせよ、「規約違反=即・重大な違法行為」と単純化するのではなく、「契約上の問題として扱われる」という前提で、規約の文言を実際に確認しておくことが出発点になる。
論点②:著作権法(データベースの著作物性など)
スクレイピング対象のサイトやデータそのものに創作性が認められれば、著作権法上の「著作物」に該当しうる。ニュース記事の本文やレビューコメントの文章表現などが典型例として挙げられることが多い。
一方で、データベースについても著作権法上の規定がある。著作権法2条1項10号の3で「論文、数値、図形その他の情報の集合物であって、それらの情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの」と定義され、著作権法12条の2で「その情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有するもの」は著作物として保護される、という整理がされている。単なる数値の羅列(例:気温の観測値そのもの)は創作性が認められにくい一方、独自の分類・構成で編まれたデータベースは著作物性が認められうる、という論点がある。
情報解析目的の権利制限(著作権法30条の4)
他方、著作権法には「非享受目的利用」に関する権利制限規定がある(著作権法30条の4)。著作物に表現された思想・感情を人が鑑賞することを目的としない利用(情報解析のための機械的な読み込みなど)については、一定の場合に著作権者の許諾なく行えるという整理がされている。
ただし、この権利制限が及ぶのはあくまで「情報解析」目的での複製等の場面であり、取得したデータをそのまま転載・再配布する、著作物として鑑賞可能な形でまとめて公開するといった利用は、この権利制限の対象外になりうるという点は分けて考える必要がある、という整理が一般的にされている。「情報解析用に取り込むこと」と「取り込んだものをどう使うか」は別の論点として検討すべき、ということになる。
論点③:不正競争防止法(限定提供データ等)
平成30年(2018年)の不正競争防止法改正で導入された「限定提供データ」の制度も、スクレイピングを考える上で押さえておきたい論点だ。経済産業省の整理によれば、不正競争防止法2条7項は「限定提供データ」を、業として特定の者に提供する情報として、電磁的方法により相当量蓄積され、かつ管理されている技術上または営業上の情報(営業秘密を除く)と定義している。
競合他社が会員限定・有料会員限定などの形で管理・提供しているデータを、不正な手段(利用規約違反や認証回避など)で取得し、自社サービスに横流し的に利用するようなケースは、この「限定提供データ」に関する不正競争に該当しうる、という論点がある。特に競合関係にあるサービス同士でのデータ取得・転用は、単なる利用規約違反にとどまらず、不正競争防止法上の問題として扱われるリスクが高くなる、という整理をしている記事が複数見られた。
逆に言えば、完全に公開されており、誰でも制限なくアクセスできる情報は「限定提供データ」の要件(限定提供性・相当蓄積性・電磁的管理性)を満たさない可能性が高い、という整理もある。ここも「公開範囲」がひとつの分水嶺になる。
論点④:不正アクセス禁止法・電子計算機損壊等業務妨害罪との関係
不正アクセス禁止法
不正アクセス禁止法は、他人のID・パスワードなど認証情報を用いて、アクセス制御機能を回避してコンピュータにアクセスする行為などを規制する法律だ。ログイン不要で公開されているページを通常の頻度で取得する行為は、この法律が想定する「不正アクセス」には通常当たらないという整理が一般的だが、認証を回避する、あるいは他人の認証情報を無断で用いて取得するようなケースでは、この法律の論点になりうる。
電子計算機損壊等業務妨害罪(刑法234条の2)
認証の有無にかかわらず問題になりうるのが、サーバーへの過度な負荷だ。刑法234条の2の電子計算機損壊等業務妨害罪は、コンピュータやその用いる電磁的記録を損壊するなどして人の業務を妨害する行為を処罰の対象としており、法定刑は5年以下の懲役または100万円以下の罰金とされている。
実際にあった事例として広く紹介されているのが、2010年に発生した岡崎市立図書館の蔵書検索システムをめぐる事案だ。この事案では、システムに高頻度でアクセスしていた人物が、閲覧障害を発生させたとして偽計業務妨害の容疑で逮捕され、その後、起訴猶予処分となったと報じられている。当時のアクセス頻度は1秒に1回程度で、通常であればサーバーに深刻な負荷を与える水準ではなかったが、対象システムの実装が旧式だったこともあり、実際に閲覧障害が生じた点が問題視されたとされる。
この事案が示唆するのは、「悪意の有無」や「一般的に見て高頻度かどうか」だけでなく、対象サーバーの実装・処理能力によって、同じアクセス頻度でも実際の影響が変わるという点だ。相手のシステムの内部構成は取得側からは分からないことが多いため、「これくらいなら大丈夫」という一律の安全基準は存在しない、という前提で臨む必要がある。
適法に近づけるための実務上の配慮
以上の論点を踏まえ、リスクを下げる方向で実務上配慮できる点を整理する。あくまで「リスクを下げる」ための一般的な配慮であり、これを満たせば適法だと保証するものではない。
- robots.txtを確認し、記載内容を尊重する:
Disallow指定のあるパスへのアクセスは避ける。robots.txt自体に法的拘束力があるわけではないが、運営者の意思表示として無視しない方向で考えるのが無難という整理が一般的 - 利用規約を事前に確認する: 規約でスクレイピングやデータの二次利用が明示的に禁止されていないか確認する。禁止されている場合は、対象を変えるか、運営者に直接許諾を取ることを検討する
- ログイン後ページ・認証が必要な情報は対象から外す: 論点③④のリスクが重なりやすい領域のため、業務利用では特に慎重な判断が必要
- アクセス頻度を抑え、サーバー負荷を意識する: リクエスト間隔を空ける、並列数を絞るなど、相手のインフラに配慮した設計にする。関連の技術的な構成はCloudflare防御を突破するスクレイピング環境の構築やスクレイピングのプロキシ選びでも扱っている
- 個人情報を含むデータは特に慎重に扱う: 氏名・連絡先等が含まれる場合、著作権法や不正競争防止法とは別に個人情報保護法の論点が生じる。取得自体を避けるか、匿名化・統計化した形でのみ利用するなど、目的外利用にならない設計を検討する
- 取得したデータの二次利用範囲を狭く設計する: 「自社内での情報解析用途にとどめる」のか「加工して公開・販売する」のかで、著作権法30条の4の射程や不正競争防止法の論点の重みが変わってくる。用途を明確にしてから取得設計に入る
まとめ
スクレイピングの適法性は、単一の法律で白黒つく話ではなく、利用規約(契約)・著作権法・不正競争防止法・不正アクセス禁止法や業務妨害罪といった複数の法分野が重なり合う領域として整理されることが多い。
大まかな傾向として、公開範囲が広く、取得頻度が控えめで、二次利用の範囲が狭いほどリスクは下がるという方向性は見えるが、これは一般的な傾向であって、個別の結論を保証するものではない。競合データの転用や、ログイン後情報の取得、大量の再配布を伴うようなケースでは、着手前に弁護士へ相談し、対象サイトの規約・データの性質・取得方法を具体的に見てもらうことを強く勧める。