サーバー購入 vs レンタル vs クラウド:5年TCO試算テンプレート
経営会議の3日前に「なぜクラウドにしたんですか」と聞かれたとき、即答できますか。
初期費用の数字だけを持って会議室に入ると、必ずこの問いが来る。購入したサーバーの保守費が毎年かさんでいる事実、クラウドの従量課金が当初見積もりを超えている事実、それらを5年スパンで比べた根拠がなければ、答えは「その時点では安かったので」にしかならない。
この記事では、購入・レンタル・クラウドの3調達モデルを5年TCO(総所有コスト)で比べるための試算テンプレートを示す。使っている数値はNEC、ConoHa、さくらのVPS、レバテックなどの公開情報に限定している。自社の変数を当てはめて使ってほしい。
なぜ「5年TCO」で比較しなければならないのか
サーバーの寿命は一般的に3〜5年とされている(OBC 360°)。購入なら5年以内に次の調達判断が来る。その周期を単位にしないと、モデル間の比較が成り立たない。
初期費用だけで判断すると見落とす費用は6つある。
| コンポーネント | 購入 | レンタル | クラウド |
|---|---|---|---|
| ①ハードウェア初期費用 | 大 | なし(月額に含む) | なし |
| ②ソフトウェアライセンス | 別途 | モデルによる | 従量/月額 |
| ③保守・サポート費 | 本体費の10〜15%/年 | 月額に含む | SLAで変動 |
| ④インフラ人件費 | 大(常駐必要) | 中(設定・監視) | 中(設定・運用) |
| ⑤廃棄・移行費 | 1台8,000〜20,000円 | なし | 移行工数のみ |
| ⑥電気代・設置スペース | 別途(本記事では省略) | 別途(本記事では省略) | なし |
電気代と設置スペースコストは消費電力の実測値が必要で、モデルや設置環境によって大きく変わる。本記事の試算表からは意図的に除いている。自社環境で計算する場合は電力会社の単価と実測ワット数を別途確認してほしい。
保守費の「値上げトレンド」を甘く見ない
2022年にハードウェアメーカー各社が一斉に保守費を引き上げた。富士通は本体約10%・オプション約30%、NECはExpress5800シリーズ等を10〜15%、HP Care Packは一律10%の値上げをそれぞれ実施している(ゲットイット調べ)。購入5年後の保守費を当初の単価で計算し続けると、実態と乖離する。
5年TCO試算テンプレート
パターンA:人件費を除いたハードウェア・サービス費のみ
中規模情シスで「インフラ担当者がすでにいる」前提のコスト比較。人件費は別枠で管理したい場合に使う。
| 項目 | 購入(NEC Express5800/T110m バリュー構成) | VPS(ConoHa 4GB/4コア) | VPS(さくら 4GB/仮想4コア) |
|---|---|---|---|
| 初期費用 | 1,491,600円 | 0円 | 0円 |
| 月額費用 | — | 2,408円 | 3,429円 |
| 保守費(5年間) | +175,010円(5年保守パック・バリュー構成) | 月額に含む | 月額に含む |
| 廃棄費(5年後) | 8,000〜20,000円 | なし | なし |
| 5年間合計(概算) | 約1,674,000〜1,686,000円 | 約144,000円 | 約205,000円 |
※購入の月額費用欄は「—」としているが、実際には電気代・スペース費が別途発生する。 ※VPSの月額は2026年6月時点の長期割引適用価格。価格変動があるため公式ページで必ず最新値を確認のこと。 ※NEC価格はNEC得選街の税込売れ筋構成(2026年6月時点)。
この表で見えるのは「ハードウェアのみの比較ではVPSが圧倒的に安い」という当然の結果だ。しかし次のパターンBを見ると判断が変わる。
パターンB:インフラ人件費を含む5年TCO
社内専任エンジニアのコストを含めた場合の試算。「自前サーバーを持つ = 専任者が必要」かどうかが分岐点になる。
フリーランスのネットワーク/サーバーエンジニア単価は65〜75万円/月、クラウドエンジニアは80〜90万円/月が目安とされている(レバテック、2024年1月時点)。社内正社員なら全額には至らないが、稼働割合(FTE)で按分して試算する。
| 前提条件 | 値 |
|---|---|
| 担当エンジニア稼働割合(オンプレ管理) | 全体工数の30%想定 |
| 担当エンジニア稼働割合(クラウド運用) | 全体工数の15%想定 |
| エンジニア月額コスト(社内・フル換算) | 自社の実数値を入れる |
| 試算期間 | 60ヶ月(5年) |
【購入の5年人件費コスト試算式】
月額エンジニアコスト × 0.30(稼働割合) × 60ヶ月
【クラウドの5年人件費コスト試算式】
月額エンジニアコスト × 0.15(稼働割合) × 60ヶ月
具体例として、エンジニアの全コスト換算が月60万円の場合:
| モデル | ハード/サービス費(5年) | 人件費(5年) | 合計 |
|---|---|---|---|
| 購入(T110m バリュー) | 約167万円 | 1,080万円(60万×0.30×60) | 約1,247万円 |
| クラウド(ConoHa 4GB) | 約14万円 | 540万円(60万×0.15×60) | 約554万円 |
※上記の稼働割合(30%/15%)は一般的な目安であり、自社の実態に合わせて変えること。 ※フリーランス単価(レバテック掲載)と社内正社員コストは計算基準が異なる。この試算はあくまで構造を理解するためのものとして使ってほしい。
大規模環境(中〜大規模・オンプレ vs AWS想定)では、人件費を含む5年総費用がオンプレ2,100万〜7,000万円 vs クラウド350万〜1,400万円という試算もある(la-j.com。同社はAWS支援業者であり、クラウド移行を前提とした試算であることを踏まえた上で参照のこと)。
各調達モデルの落とし穴
購入の落とし穴
初期費用が確定費用に見えるが、その後の費用は変動する。
NECのT110m売れ筋構成(2026年6月時点・税込2,521,640円)に5年保守パックを付けると、差額は+227,700円になる(NEC得選街)。保守費の目安はサーバー本体+構築費の10〜15%程度とされており(レバテック、ゲットイット)、毎年の支出が固定費として続く。
廃棄コストも忘れやすい。産廃業者への依頼は1台あたり8,000〜20,000円、メーカー回収は5,000〜15,000円が相場(PCラクウリNEXT)。法人の機器はPCリサイクルマーク制度の対象外で、産業廃棄物扱いが原則だ。
構築費も別途かかる。タワー型サーバー本体は10万円〜、ラック型は30万円〜、ネットワーク構築(15〜25台規模)は10万〜20万円、UPSは3万〜8万円が目安(PRONIアイミツ)。
「購入したら固定費ゼロ」という認識が、最もよくある誤解だ。
レンタルの落とし穴
月額の予測可能性は高いが、長期で見ると割高になるケースがある。5年間支払い続けた総額が、購入した場合の初期費用と保守費の合計を超える可能性がある。
また、レンタル契約の途中解約には違約金が発生することが多い。業務要件が変わっても機材の入れ替えに時間がかかる場合もある。
スペックを固定したい・5年以上使い続ける確信がある場合に向いているが、その確信が持てる状況は意外と少ない。
クラウドの落とし穴
従量課金は「使った分だけ」に見えるが、トラフィック増加や設定ミスによるコスト増が起きる。小規模クラウドの月額目安は5,000〜30,000円、中規模は30,000〜100,000円とされているが(la-j.com。同社はAWS支援業者であり、中〜大規模想定の試算であることを踏まえた上で参照)、上限なしで増えうる。
ベンダーロックインも現実的なリスクだ。特定クラウドの独自サービスに依存すると、移行コストが想定外に膨らむ。
従量課金の「上振れリスク」と移行コストを試算に含めないまま「クラウドが安い」と結論すると、数年後に後悔する。
経営層への説明で押さえる3ポイント
5年TCO試算を経営会議に持ち込むとき、資料として成立させるために最低限必要な軸が3つある。
ポイント1:比較の前提条件を揃える
同じスペックで比較しているか、人件費を含むか除くかを明示する。前提が違う表を並べると「どちらが正しいのか」という議論になって前に進まない。パターンAとBを分けて示すのが有効だ。
ポイント2:変動する費用には「幅(レンジ)」を持たせる
保守費の値上げリスク、クラウドの従量増、廃棄費など、5年後の確定値が出ない費用は最小値〜最大値の幅で示す。「正確に出せない」のではなく「幅があることを把握している」という姿勢が信頼につながる。
ポイント3:「何を最小化したいのか」を先に決める
初期キャッシュアウトを抑えたいのか、5年総額を最小化したいのか、人件費リスクを下げたいのか。目的によって「正解」が変わる。目的を明示した上で試算を見せないと、聞き手がどの数字に注目すればいいかわからない。
よくある質問
Q. サーバー保守費の目安は何%ですか?
本体+構築費の10〜15%程度が一般的な目安とされています(レバテック、ゲットイット)。ただしメーカー・スペック・サポートレベルによって異なります。2022年以降、主要メーカーが10〜30%程度値上げしているため、購入時点の単価で5年後の保守費を計算し続けると実態と乖離します。
Q. オンプレとクラウドのどちらが5年で安いですか?
人件費を含めると多くのケースでクラウドが安くなる傾向がありますが、規模・稼働割合・自社エンジニアの有無によって変わります。「ハードウェア費だけ」で比べると購入が高く見えますが、「人件費込みの5年総額」で比べると逆転する場合があります。本記事のパターンB試算テンプレートに自社の変数を入れて確認することを推奨します。
Q. VPSとクラウドは同じですか?
厳密には異なります。VPS(仮想プライベートサーバー)はさくらやConoHaのように物理サーバーを仮想分割して提供するサービスです。クラウドはAWSやGCPのように、コンピューティング・ストレージ・ネットワークをAPIで柔軟に組み合わせられるサービス全般を指します。VPSは月額固定が多く、クラウドは従量課金が基本です。
Q. 廃棄費はどのくらい見ておけばいいですか?
産廃業者への依頼で1台あたり8,000〜20,000円、メーカー回収で5,000〜15,000円が目安です(PCラクウリNEXT)。スペックによっては専門買取業者に0円〜で引き取ってもらえる場合もありますが、保証はありません。複数台ある場合は廃棄費の合計を5年TCOに含めておくことを推奨します。
Q. 試算テンプレートはExcelで使えますか?
この記事の構造をそのままExcelのシートに移してください。列を「購入/レンタル/クラウド」、行を「初期費用/月額費用/保守費/人件費/廃棄費」に分け、セルに自社の実数値を入れれば5年合計が出ます。パターンAとBを別シートにしておくと、経営会議で「人件費込みか否か」をすぐ切り替えて見せられます。
自社の規模・既存のエンジニアリソース・業務要件の変化スピードによって、どのモデルが最適かは変わる。ここまで試算テンプレートを示してきたが、実際には「変数の拾い方」と「どこに幅を持たせるか」の判断が最も難しい部分だ。
試算の前提設定や調達モデルの選定について相談したい場合は、以下からご連絡ください。